ウラ社会と深い繋がり

ウラ社会は、バブルの中で巨額な資金を動かして、金融業、不動産業、建設業といったオモテ経済に深く根を下ろすようになったのである。及能正男・西南学院大学経済学部教授の試算によると、都銀・長信銀・信託銀行の主要行が過去十年間に償却した不良債権は五十四兆千五百億円強である。五十四兆円とは全国で納められる消費税の五年分に当たる。この大半が金融業、不動産業、建設業のズブル三業種につぎ込まれ消えていった。しかも、驚くなかれ、金融機関が抱えた不良債権の二〇%が「暴力団がらみの融資」といわれている。実に十一兆円弱の融資を闇の勢力は踏み倒したのである。暴力装置を背景に巨額の借金が棒引きされたことになる。

闇の勢力は地上げという合法ビジネスを通して、巨額な資金を吸い上げていった。彼等はその資金を元手に、企業の買収、株式の売買に目を向けるようになった。規制緩和がウラ経済を太らせた。規制緩和はビジネスチャンスを生み出すと同時に、ダーティービジネスをも繁殖させた。挙げ句の果てに、オモテ社会は天文学的な不良債権の山を築いたのだ。

この時期、住友銀行による平和相互銀行の吸収合併が起きる。その過程で住銀はウラ社会と深い繋がりを持ち、戦後最大の経済事件といわれたイトマン事件を引き起こした。イトマン事件の主役、許永中ら「企業舎弟」は、暴力団との関係を背景に、住銀から資金を吸い上げていった。「闇の勢力が都市銀行を乗っ取ろうとした」(巽外夫住銀元会長)のである。

最終的にどれだけのカネが彼等のフトコロに入ったのか大阪地検でさえつかみ切っていないが、絵画、上地、株の売買などのかたちでイトマンを通じて住銀から吸い上げられた資金は「総額で五千億円から六千億円」(イトマン元役員)といわれている。この三分の一ないし半分は、広域暴力団に流れたとみていいだろう。

同じ時期、関東では東京急行電鉄株式の買い占め事件が起きた。広域暴力団・稲川会の前会長の石井進(故人)による買い占めだ。総投資額四百三十億円。野村謐券、日興証券の関係会社や東京佐川急便が買い占め資金を提供した。

それだけではない、石井がオーナーとなっている岩間カントリークラブが「会員資格保証金預かり証」を発行、三百八十億円を集めた。この金が東急電鉄株の買い占めに使われていたことも明らかになっている。ただの紙切れにすぎない預かり証を、ありかたく購入していたのは、東京佐川急便や野村謐券、日興謐券の子会社などである。野村、日興という日本を代表する証券会社二社は暴力団に資金を援助していたのである。