ウラ社会がオモテ社会を浸食する

東西の二つの事件は、バブルの狂乱の中で、ウラ社会がオモテ社会を浸食した、象徴的な事件だったといえる。新興市場はマネーロングリングの場歴史は繰り返すのだ。証券市場でも規制が大幅に緩和された。マザーズ、ナスダックージャパンの創設で、株式公開の機会が飛躍的に増えた。新興市場の狙いは市場の活性化とベンチャー企業育成による日本経済の再生であるが、このお題目を逆手に取って闇の勢力が汚れた手を伸ばしてきた。

闇の勢力にとって、新興株式市場はまたとないビジネスチャンスと映る。マザーズ開設記念式典が開かれた九九年十二月二十九日に、警察庁と警視庁が証券会社の公開引き受けの担当者と東証の関係者を呼んで、「上場基準の緩和によって、フロント企業などが株式市場に紛れ込むことがないようにしてもらいたい」との注意を喚起した。さらに二〇〇〇年三月に入り、警視庁は山口光秀東証理事長(当時)に対して、「上場基準を厳しくして、マザーズ暴力団関係者を排除するように」と文書で異例の警告を発した。

暴力団、右翼、総会屋が自らベンチャー企業を起こすわけではない。正体を明かしてベンチャー企業の出資者におさまるわけでは無論ない。「ダミー会社を通じて支援者を装う。政界や経済界の有力者の紹介で近づくことになる。起業家が気付かないうちに会社自体をフロント企業にしてしまう。そして、ベンチャー企業を通してマネーロンダリングするわけです」(民間信用調査会社の役員)フロント企業とは企業舎弟が経営する会社の総称だ。企業舎弟とは暴力団組織が実質的に経営に関与しながら、表向きは合法的な形態を取っている企業の経営者を指す。

マネーロンダリングは、麻薬取引などによって得た不正資金を、企業の銀行口座を二つ三つ転々とさせ、資金の出所を分からなくさせることだ。金の汚れが、口座を移し替えることによって、洗浄されることから、マネーロンダリングと呼ばれている。もともとアメリカのマフィアの手法だったが、日本の暴力団もバブルの時代に、主に関西の金融機関を使って、数兆円の金を上手に洗浄した。

ネットベンチャーが成功するのは百社のうち一社か二社である。その代わり、早手回しに株式を公開すれば、業績に関係なく値上がりが期待できた。勝負は早い。土地と株を中心とした前回のバブルの時代には、経済に強かった広域暴力団のトップは仕手株の売り買いでマネーロンダリングした。

経済ヤクザが従来型の武闘派にとって替われたのは、合法的に金の流れをしっかりと押さえたからだ。二十世紀末は、ネットベンチャー市場がマネーロングリングの格好の舞台となっている。マザーズに株式公開を予定しているとされるG社と業務提携している上場会社かおる。この会社を仮にN社としておこう。N社は業績不振で株価が低迷、過去に何度も仕手筋のおもちゃにされたことがある。