暴力団排除の指針

N社の経営権を握る別の会社があって、この会社のオーナーが広域暴力団の幹部と親しいと噂されている。N社はG社と業務提携した見返りにG社の株式を第三者割当増資で引き受けた。何か言いたいかというと、フロント企業企業舎弟の影もかたちも、G社が上場する時点ではないということだ。経営権を握る別の会社がN社に増資資金を出し、その見返りにG社の株式を譲り受け、公開時に売却して多額のキャピタルゲインを手にするわけである。この場合、暴力団が直接に資金を出すことはない。しかるべき金融会社を使って増資資金のスポンサーになるわけだ。こうすれば、いとも簡単に、ベンチャー市場を通してマネーロンダリングができるのである。

しかも、資金には事欠かない。「銀行はこれまで五十兆円以上の不良債権を処理してきた。このうち二割の、およそ十兆円が暴力団がらみのものでしょう。銀行の不良債権処理とは引当金を積んだり、債権放棄をしたりして、回収をあきらめるということです。暴力団向けの融資はまず回収されません。回収しようとしたら命がいくらあっても足りませんからね。暴力団に対する形を変えた無償贈与なのです。銀行の損失は公的資金で穴埋めされましたから、税金が暴力団に回り回って流れたともいえるのです」(関西の地下金融の大物)

九二年春に暴力団対策法が施行された。資金源を断たれた暴力団は、バブル崩壊でさらに窮地に追い込まれた筈だ。それなのに資金は潤沢だ。暴力団不良債権処理に介入してこれを収入源にしたからだ。バブル崩壊で大量の不良債権が発生し、物件が競売に出されるようになった。彼等の古典的なやり方は、競売に付された物件に賃借人として入居し、立ち退き料をとることだ。いわゆる「占有屋」である。

「占有屋」と同じように増殖したのが「競売屋」だ。競売にかけられた担保物件を落札することを生業としている。競売屋の落札資金は、金融会社を通じ暴力団から出ているのが普通だ。暴力団系の落札屋なら、占有屋との明け渡し交渉も簡単だ。占有している暴力団自身が、競売屋と物件価格の引き下げ交渉をして、フロント企業が安値で買い取ることもある。物件をほかの暴力団フロント企業に転売したりもする。

競売物件は信じがたいほど安い。暴力団は超安値で競売物件を手に入れているのだ。不良債権の処理の過程で暴力団が甘い汁を吸っていることを知る人は少ない。競売は裁判所を舞台にしているわけだから、これほど合法的なものはない。裁判所を通してのマネーロンダリングだって可能なのだ。

東京証券取引所の土田正顕理事長は二〇〇〇年七月十八日の記者会見で、マザーズ暴力団関係企業が上場して資金調達するのを防ぐために、警視庁と全面的な協力態勢を敷くとともに、「暴力団の排除に関する運用指針」を作成したことを明らかにした。東証の上場審査部が持つ上場申請企業のデータと、警視庁暴力団対策課のデータを照らし合わせるとともに、実務担当者同士が連絡会議を開き、チェック態勢を強化する。審査段階で株主、経営陣、取引先などを警視庁に照会し、不審な関係者が判明した場合は、上場を認めないという。