社会保障のリフォーム

日本からスウェーデンにやってくる日本人には、二つのタイプがあるとスウェーデン人や在スウェーデンの日本人はいう。ひとつは″社会保障王国万歳″を声高に唱え、なかには日本に帰って「スウェーデンには寝たきり老人はいない」などと叫ぶタイプ。もうひとつのタイプは「スウェーデン社会保障を手厚くしたために財政難に陥った」とするタイプである。

私は、このどちらの考え方も誤りだと思う。端的にいって国民に多少の重税感があったにしても、スウェーデンは過去半世紀にわたって国力の範囲で社会保障を充実する政策を展開し、国民もそれに信頼をおいて多額の税金を納めてきたわけである。

だから、おいそれと社会保障費の歳出を抑制するわけにもいかない。しかし、政府予算の三〇パーセントもの歳入欠陥ということになれば、なんらかの手を打たないわけにはいかない。とはいえ、ロが裂けても「社会保障を削減する」とはいえないのである。

スウェーデンの社会省や保健福祉庁の幹部数人に話をきいたが、誰一人として「社会保障を後退させるのはやむをえない」といった人はいなかった。社会保障そのもののリストラを考えている人はいない。予算削減をせずに効率を上げることを目標にし、若干の修正はやむをえないという考え方である。それを「リフォーム」と呼んでいる。

スウェーデン政府の社会保障分野へのリフォームは、財政悪化の始まった一九九〇年前後から顔をのぞかせはじめている。そのリフォームの具体的な面をいくつか拾ってみよう。この施策を説明したスウェーデン政府の役人たちは、いずれも「財政支出削減のための対策ではなく、効率化をはかった政策である」ということを強調していた。私の邪推かもしれないが、社会保障費を財政的に削減するという発想は、スウェーデンでは、国民にとってタブーなのかもしれない。