常在微生物は宿主の老廃物の流れの中に生活している

常在微生物は宿主の老廃物の流れの中に生活しているが、常在微生物も異物であることは病原微生物の場合と変わりはない。ただ大きな違いは、常在微生物は、宿主生体の中の流れを積極的には乱さないことである。けれども何らかの原因で宿主の流れが乱れると、その結果、常在微生物が宿主に感染症を起こすことがある。これが日和見感染症と呼ばれるものである。このことは、とくに異物の存在によって、日和見感染症が起きやすくなることを意味している。たとえば尿路に結石ができ、尿の流れが悪くなると尿路感染症が起きやすくなる。血管の中にカテーテルを長く挿入しておいても。その部位に皮膚の常在菌による感染症が起きやすくなったりする。

流れが乱れているということは、その分だけ生物が死ぬ方向へ向かっていると考えると、日和見感染症の病原体が増殖することは、さらに宿主を死に近づけることになる。これに反し通常の感染症や伝染病の場合には、逆に、できるだけ宿主の生命を絶たないように、病原体のほうで病原性を調整しているようにも見える。言い換えると、伝染病の病原体のほうが宿主の生存に依存しているということである。常在微生物は、伝染しなくてもほかの個人、とくに宿主の母方の縁者に自分の仲間が十分、定住しているわけである。したがって常在微生物の種としての存続にとって、特定の宿主の死は問題にならないということになる。日和見感染症を起こしているヒトを、容易に感染を起こしやすいという意味で易感染性宿主と呼ぶが、コンプロマイズドーホストという英語のほうがよく用いられている。どの種類の排除反応を起こす機能が低下しているにせよ、コンプロマイズドーホストとは、排除反応に関係する流れが異常になっているヒトということができる。