高血圧症と高脂血症の合併例

定年後、暇ができたので食べ歩きに間食ざんまい(女性・初診時五九歳)Fさんは五五歳頃から高血圧、高脂血症を指摘され、近医から投薬を受けていました。一九八八年五月(五九歳)運動時胸部不快感の精査目的で当科を受診しました。身長一四九センチ、体重四七キロ、血圧一五五/九五、総コレステロール二六八、HDL(いわゆる善玉)コレステロール五七(以下同、基準値四〇以上)、中性脂肪七七、降圧剤と高脂血症治療薬を投与されました。トレッドミル運動負荷試験(電動ベルトの上を歩き、心臓に負担をかけながら血圧と心電図を測定する試験)は全く異常なく、狭心症ではない、との診断でした。

定年退職後、運動量が減りました。暇ができたので海外旅行にでかけグルメツアー、国内ではフランス料理、自宅では間食に和菓子とフルーツ、という生活が始まりました。九〇年一月(六一歳)体重五一キロ、血圧一四六/九六、総コレステロール二五八、高脂血症治療薬を服用していましたが、ほとんど無効でした。そこで食事指導を行ったところ、一年間程は間食をやめ、一四〇〇〜一五〇〇キロカロリーのエネルギー制限をかなり熱心に実行しました。その結果体重四七キロ、血圧一三〇/八五、総コレステロールー一〇〇と改善しました。

しかし生活か徐々に元にもどり、総コレステロール二三〇が続きました。九七年八月(六七歳)、血圧一三〇/八〇、総コレステロール二七一。一〇月末以降、寒い日に外出すると胸痛を自覚するようになりました。一月にはいり、寒いところで一五〇メートル歩くと胸が痛くなる日が続き、当科受診、狭心症と診断され入院となりました。冠状動脈造影検査により左、右の冠状動脈に九〇%狭窄が認められ、経皮的冠状動脈形成術(PTCA、カテーテル先端部分のバルーンを膨らませ。冠状動脈の狭くなった部位を拡張する治療方法)が必要と診断されました。

この例は高血圧症と高脂血症の合併例です。高血圧症がよくコントロールされていたのとは対照的に、総コレステロールは高値か続いていましたから。冠状動脈硬化症悪化の主な原因は総コレステロールが長期間高かったことだと推測されます。九八年一月にPTCAを行いましたが、その後の総コレステロール値が依然として高く(二三〇〜一四〇)、動脈硬化性病変が進行して狭心症がまた起こるのではないかと心配です。