スワップの仕組み商品

一方、調達サイドとしては、たとえば、固定利付債を発行している企業が、先行きの金利低下のメリットを享受しようとする場合に金利スワップを使うことができます。すなわち、この企業は、金利スワップ取引で固定金利受け・変動金利払いのレシーバーとなることにより、実質的に固定利付債の発行残を変動利付債の発行残にスイッチして、市場金利の低下のメリットを享受することが可能となります。資産や負債の保有主体は、金利スワップ取引により資産・負債を手放すことなく、資産・負債から生まれる金利とは異なるタイプの金利に変えることができ、この結果、資産や負債自体を交換したと同様の効果が得られます。こうしたことから、金利スワップは金融機関にとってALM(資産。負債管理)の必要不可欠のツールとして活用されています。

金融機関の資金調達と運用の構造は、一般的に短期の預金で調達して、これを中長期の貸付に回すという形を取ります。これは、実質的に変動金利調達・固定金利運用となり、金利上昇局面においては、預金金利のほうが貸出金利よりも早く上昇することになって、金利上昇に弱い体質となります。そこで、金融機関では、ペイヤースワップを組むことにより、金利上昇リスクをヘッジすることができます。また、金利スワップはヘッジ目的ばかりではなく、投機目的でも取引されています。たとえば、先行き金利が下落するとみれば、レシーバースワップを組みます。これは、実質的に短期資金を借入れ、これを固定利付債に投資したのと同様の効果を持ちます。また、先行き金利が上昇するとみれば、ペイヤースワップを組みます。これは、実質的に固定利付債を空売りして、その代金で短期資金運用したのと同様の効果を持ちます。

金利スワップの基本は、想定元本から将来発生する金利というキャッシュフローを定期的に交換することを約束する取引です。すなわち、金利スワップのスタート時点においては資金の授受は発生せず、その後の定期的な金利の交換時点ではじめて想定元本に固定金利、変動金利を乗じたキャッシュフローの受払いが生じることとなります。したがって、金利スリップのスタート時点で取引当事者の一方が得をして、他方が損をするようなことでは、取引自体が成立しません。このことは、金利スワップは将来発生することが予想されるキャッシュフローを現在価値に引き直して等価であるもの同士を交換する取引であるということを意味します。これを固定金利と変動金利を交換するプレーンバニラスワップでみると、次のようになります。

将来、定期的に支払われる固定金利の合計額の現在価値=将来、定期的に支払われる変動金利の合計額の現在価値、現在価値とディスカウントファクター。前述から、金利スワップ取引は、将来発生するキャッシュフローの現在価値を等価で交換する取引であることが明らかになりました。それでは次に、将来発生するキャッシュフローの現在価値をどのように計算するかを、金利スワップを代表するプレーンバニラスワップでみましょう。まず、固定金利サイドのキャッシュフローは、金利の受払が行われる各々の期間のスポットレートを使って現在価値に引き直します。一方、変動金利サイドのキャッシュフローは、金利先物相場や債券相場で成立している金利を使って将来の変動金利の理論値を算出して、この理論値により現在価値を導出します。この理論値は、ディスカウントファクター(DF)と呼ばれ、たとえば、期間90日のディスカウントファクターは次のようになります。

スワップション」は、スワップとオプションを組み合わせた商品です。すなわち、スワップションの買い手は、将来の一時点でスワップを開始するかどうかの選択権を持ちます。たとえば、固定金利貸出を行っている金融機関が先行きの金利上昇を予想する場合には、固定金利払い・変動金利受けのペイヤースワップを組むことが考えられます。しかし、これでいくと先行き、予想に反して金利が低下した場合には固定金利貸出から得られる高い金利をギブアップすることになります。そこで、ペイヤースワップを原資産とするスワップションを買います。これで、金利上昇となったケースでは権利行使によりスワップを実行して固定金利払い・変動金利受けのポジションを持って市場金利の上昇のメリットを享受することができます。