事前相談制度の意義

したがって、理屈の上では、30日の待機期間は経過したものの、後に公正取引委員会が排除措置の必要ありと判断した場合には、合併を実行してしまった後に独占禁止法上の問題を解消するための措置を命じられるリスクが残るという不安定な状態に置かれます。特に合併後の市場集中度やマーケットシェアなどから判断し、独占禁止法上の問題が懸念されるケースでは、公正取引委員会のクリアランスを得ずに合併を実行するということは実務的にはとり得ない選択肢だろうと思います。そこで、合併を予定する当事会社は、正式の事前届出を行う前に(さらに言えば、合併契約を締結する前に)公正取引委員会への事前相談を行うことができます。

事前相談の手続については、公正取引委員会から「企業結合計画に関する事前相談に対する対応方針」というガイドライン(いわゆる事前相談ガイドライン)が公表されています。事前相談ガイドラインでは、その手続の概要や各手続段階に要する時間の目安に加え、審査を開始する段階において提出すべき資料の具体的な内容や、各当事会社が具体的な判断要素に関する主張を行う際に提出すべき資料の例なども明らかにされています。事前相談制度は大きく二つの段階に分かれます。書面による第一次審査の段階と、外部へのヒヤリング調査を含む第二次審査の段階です。

合併を計画する当事会社が、予定している合併の具体的な計画を示して事前相談を申し出ると、審査に十分な資料が提出されたと公正取引委員会が判断して通知したときから第一次審査が始まります。追加資料が必要な場合にはその旨要請され、これらが出揃ってはじめて第一次審査の期間が開始します。第一次審査の結果は、原則として30日以内に当事会社に通知されます。ここで、独占禁止法上問題がない旨、またはさらに第二次審査が必要である旨のいずれかが通知されます。第二次審査が必要と判断された場合には、さらに審査に必要と判断される具体的な資料の提出を求められ、その資料が提出された日から審査が始まります。第二次審査の結果は、資料提出が完了した日から原則として90日以内に、その理由も含めて書面で回答されます。

公正取引委員会は、この内容を公表します(企業の秘密を含む部分は除きます)。事前相談において独占禁止法上問題ないとされた合併計画は、その後正式な法定の事前届出の手続が行われた際に、事前相談の対象となった計画と同一の内容の届出が行われる限り、問題ないものとしてそのまま認められることがガイドライン上も明記されています。公正取引委員会独占禁止法上問題があると判断す為場合には、具体的な問題解消措置について協議することとなります。特定の取引分野について一定の問題解消措置をとることを条件として合併自体の実行が認められた例も過去に公表されており、秩父小野田日本セメントの合併(平成14年事例。平成15年6月委員会公表)、三菱ウェルファーマ田辺製薬の合併(平成19年度事例、平成20年6月委員会公表)などがあります。

合併ではないですが、キリングループと協和発酵グループの資本提携(平成20年度事例、平成21年6月委員会公表)、新日本石油新日鉱ホールディングス経営統合パナソニックによる三洋電機の子会社化(いずれも平成21年度事例、平成22年6月委員会公表)も、問題解消措置をとることを前提として企業結合取引が認められたケースです。事前相談の手続フローチャートは、図のとおりです。事前相談を行う場合の留意点。相談の前に独占禁止法上の分析と理論構築をしっかり行うこと。当事会社にとって事前相談を行う目的は、あくまで合併計画について独占禁止法上問題ない旨の見解を公正取引委員会から得るためですから、ただ合併当事会社の事業の競業状況やマーケットの情報を収集の上提出するだけでなく、相談に先がけて、当事会社としてはその合併が企業結合ガイドラインに照らし、独占禁止法上問題ないと考える議論の筋道を整理して、公正取引委員会にそれを理解・納得してもらうための十分な準備を怠らないことが重要です。