最短の道を見つける

未来に一番乗りするためには、最短経路を見つけ出さなければならない。夢は一夜にしては実現しない。根本的に変わった産業が構想されてから現実に相当規模の市場が台頭してくるまでには、長い年月を必要とするかもしれない。目標は、未来への展望を真の市場機会に変えるのに必要な時間と投資を、最小限に抑えることである。ここで明らかにしてきた未来競争の三段階を思い出してみよう。第一段階は、業界の未来図を描き戦略設計図を描き上げるという、未来をイメージする競争である。第二段階は、今日と明日の市場や業界構造の間に最短の道を切り開く競争である。

新しい事業機会が始動し、新業界構造が形成され始めてから後の、シェアと市場ポジションをめぐる競争である。第一段階の競争は、今後とって代わるかもしれない業界構造や新しい事業機会の場を構想する競争である。思考力と想像力で競合他社を陵駕することが目標である。第二段階の競争は、生まれつつある未来の業界構造を自分に有利に形成することである。ここでの目標は、競合他社を側面攻撃し、引き離すことである。

構想を有利に展開する競争は未来をイメージする競争と同様、製品ごとの直接的なライバル関係が企業間にあまりないという点て、市場前段階の、あるいは市場外の競争と言える。管理職や経営戦略論の教授の多くが躍起になっているのは市場を基盤とした競争が行われる第三段階である。だが、ここではすでに技術上の不確実性はほぼ解決済みである。市場に供給する製品やサービスが何であるのか、誰の目にも明らかだ。

価値連鎖もすでにはっきりしている。部品供給メーカーと購入企業の補完関係もだいたいわかっている。この競争の最終段階ではすでに業界構造が確定しており、ちょうど多数の参加者が脱落したあとのマラソンの最終一〇〇メートルのようなものである。優勝者はわかるが、レース当日までにどのような練習と精神的鍛練を行い、四二手口以上もの間、どのようなレース戦術をとったためにトップで決勝点に到達できたのかは、ほとんどわからないのである。

市場の前段階で行われる競争の簡単な例を見てみよう。一九九四年の段階では、完全双方向テレビが普及するという夢が巨大市場として実現するまでには、まだ一〇年以上かかるものと思われていた。それにもかかわらず、さまざまな企業がフロリダ州オーランド、カリフォルニア州カストロバレーなどで地域双方向テレビサービスの実験を重ねていた。

ヒューレットーパッカード、ゼネラルーインスツルメンツ、AT&T、マイクロソフト、シリコンーグラフィックス、それにフィリップスといった企業が、双方向テレビのためのセットトップ信号変換端末機や、ビデオーサーバー、ソフトウエア規格の考案をめぐってすでに競争したり、共同作業したりしていた。この競争は、提携、企業力の蓄積、標準規格の設定、市場実験といった分野で繰り広げられた。各社とも、製品コンセプトから実際の製品までの最短コースを切り開き、将来、売上局を少しでも多く自社の懐に取り込めるような体制を整えようとしていた。